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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)720号 判決 1948年11月04日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人松久利市上告趣意第一點について。

論旨は、本件強盗殺人被告事件において被告人は、被害者(母方の祖母)に對し本件犯行決意の當初から犯行終了に至るまで殺人の故意は毛頭無いばかりではなく、被害者の首を絞め死の結果を招来した第一審相被告人西浦一郎の実行行為には被告人は加擔しておらず、又致死の実行行為に關しては被告人と右西浦との意思共通の範圍を超えてなされた西浦單獨の擧動に基くものであるから、被告人は致死の結果の加重責任を負うべきものでないと言うに歸着する。しかし、強盗殺人罪は、強盗する機會に人を殺すによって成立する結合的犯罪である。數人が強盗の罪を犯すことを共謀して各自がその実行行為の一部を分擔した場合においては、その各自の分擔した実行行為は、それぞれ共謀者全員の犯行意思を遂行したものであり、又各共謀者は他の者により自己の犯行意思を遂行したものであるから、共謀者全員は何れも強盗の実行正犯としてその責任を負うべきものである。そして、強盗共謀者中の一人又は數人の分擔した暴行行為により殺人の結果を生じたときは、他の共謀者もまた殺人の結果につきその責任を負うべきものである。さて、適法な證據によって原判決の認定した事実によれば、被告人は第一審相被告人西浦一郎と共謀して、被告人の祖母加藤キク方から同女の不在中を窺って金品を窃取しようと企て、午前中から同家縁の下で同女の外出するのを待っていた。がしかし、同女が外出する様子がさらにないので、被告人及び西浦はむしろ同女に暴行脅迫を加えて金品を強取しようと相謀り、午後二時頃西浦が縁の下から飛び出して座敷えあがろうとしたところを逸早く同女に気付かれて大聲を立てられたので、先ず西浦が同女を組み伏せ、續いて被告人も縁の下から出て右手で同女の口を抑えた。すると同女が極めて悲痛な聲を出したので、被告人は思わずその手を同女の口から離したところ、同女は這うようにして逃げ出した。そして、なおも頻りに聲を立てるので、西浦は、むしろ同女を殺害して物品を強取しようと決意して、両手で同女の頚を緊めて急性窒息死に至らしめて殺害した。そこで、両名は金品を物色し、同女所有の現金約六百圓、洋服及び洋服生地その他雑品合計十六點を強取したという事案である。されば、被告人が西浦と強盗につき共謀したことは動かぬ事実である以上、犯行の途中から西浦が強盗の手段として殺意を生じて殺害した結果について、被告人もまた強盗殺人の加重責任を負擔すべきは當然である。論旨は、それ故に理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって、刑訴第四四六條に從いて主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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